行政システム株式会社

Topics vol.3 トップの関与とキャリアパス

 「自治体DXがうまくいかない」、このような悩みを抱えている自治体は結構多いのではないだろうか。自治体DX推進組織を立ち上げた、推進計画も策定した、それにもかかわらず庁内ではDXを推進しようという意識が高まらない。あるいは標準化やマイナンバーカードなど、総務省が掲げた「重点取組事項」をこなすだけで精一杯、デジタル社会を踏まえた新しい取り組みなど考える余裕もない。

 それもそのはず、かつてのITがパソコンやインターネットを導入することが目的ではなかったのと同様、DXもどこかのDX事例を導入することが目的ではない。最も大きな目的とは職員の意識改革だ。

ITの時代、New Public Managementという民間経営手法の潮流が押し寄せると同時に、地方分権一括法の施行によって自治体は政府と同等の立場で行政活動が行えるようになった。当時、自治行政を大きく転換するための意識改革が求められ、パソコンやインターネットはあくまでそのための道具だった。

 翻って、DXの目的は何であろうか。総務省の推進計画では「自治体DXとは(中略)社会全体のDXを推進する役割を果たす。社会全体のDXとは、デジタル化の遅れに対して迅速に対処するとともに、新たな日常の原動力として、制度や組織の在り方等をデジタル化に合わせて変革していく」と書いてあるだけで具体的な姿は見えない。

 つまり、何のためにどのような姿を目指すのか、そのために職員はどのように意識を変えるべきなのか、地域の実情に則して自治体のトップや幹部がそれを示さなくてはならない。「自治体DX全体手順書」でも、ステップ0として「首長や幹部職員による強いリーダシップとコミットメントが重要」であることを強調している。

 若手職員のなかにはやる気のある者がいるだろう。しかし、いくらデジタル化に取り組んでもキャリアとして認められず、梯子を外されてしまえば組織の中で浮いてしまう。DXの認識共有・気運醸成には、職員全員にデジタル化の意識変革を促し、デジタル経験をキャリアとして重視するトップ層の強い意志と制度の整備が必要である。

 「DX白書2023」(IPA:独立行政法人情報処理推進機構、2023年2月)によれば、「全社戦略に基づいてDXに取組んでいる」日本企業の割合が過半数に達したものの、米国にはまだ10ポイント以上も引き離されているという。そしてDXで成果が出ていると回答した日本企業が58.0%であるのに対し、米国企業は89.0%とその差はさらに広がる。

 その理由は、日本ではITに見識のある役員があまりにも少ないからだ。日本企業の72.2%が、見識のある役員が3割未満と回答した。逆に3割以上と回答した日本の企業が27.8%であるのに対し、米国は倍以上の60.9%だ。社会のデジタル化を前提にビジネスを組み立て直す(つまり変革する)ためには、デジタル感覚を持った経営判断が必要となるからだ。

 また、日本企業の8割以上がデジタル人材の量・質の不足を感じている。米国企業に比べて両者ともに不足感が大きいだけでなく、前年よりも悪化している。その大きな理由がキャリアサポートの薄さだ。

 キャリアパスが整備されている日本企業が17.9%であるのに対し米国企業では41.5%、ロールモデルの提示では日本企業の10.7%であるのに対し米国企業では33.9%。政府がいくらデジタル人材の育成、リスキリングを叫んでみても、使い捨てにされるくらいなら誰もデジタル人材にはなるまい。

 これは民間に限った話ではなく、自治体の現場でも同様だろう。自治体DXを持続的効果的に進めていくには、デジタルに見識のある首長や幹部職員が職員の意識改革への強い意志を示し、幹部職員につながるデジタル人材のキャリアパスを整備、ロールモデルを提示することが必要だ。

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