行政システム株式会社

Topics vol.7 自治体標準化の本当の狙いとは

 自治体DX推進の下、各自治体では「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」(以下、「自治体標準化」)の作業が進んでいる。移行期限の2025年度末まで2年余り、基幹系システムを標準システムに移行するとともに、クラウドへの移行も求められる。基本方針改定で「移行難易度が高いシステムの期限猶予」が追記されたものの、基本的な枠組みは変わっていない。

 そのような状況のなか、クラウドの運用経費や回線費用が増大する、補助金の不足分を国が負担してくれるのかなどの問題が報道されることが多くなった。しかし、筆者が自治体のデータ分析[1]をしたところ、標準システムを採用した場合に運用コストが嵩む、つまり従来の職員数では運用できず、職員増が必要になる業務が出てくるかもしれない。

 自治体業務においては、経験的に標準化しにくい業務としやすい業務がある。しかし、現在の自治体標準化では基幹系業務はすべて標準化が可能だという前提(異なる部分はオプション機能で対応)で進んでいる。そして、標準システムに業務運用を合わせれば良く、運用コスト(運用に携わる職員数)は変わらないという前提だ。

 そこで筆者は、人口規模が大きいほど業務効率が向上する(標準化しにくい)業務形態と人口規模によって業務効率が変わらない(標準化しやすい)業務形態の2類型があるとの仮説を立て検証してみた。前者の例は税業務で、バッチ型業務のため規模の経済性[2]が生じると考えられる。後者の例は窓口業務で、一件ごとに処理をするトランザクション型業務のため規模の経済性が生じにくい。

 全国自治体のデータを使って分析したところ、税業務の場合は人口規模が大きいほど業務効率が向上しており、自治体によって業務効率が大きく異なっていた。すなわち人口規模によって業務運用が異なり、情報システムの相違も大きくなる。一方窓口業務の場合、人口規模と業務の効率性は無関係だった。トランザクション型では規模の経済性は確認できず、そのため情報システムも相違がないと考えられる。

 標準システムへ移行した場合、窓口業務の場合はほぼ問題にならないが、税業務の場合は運用を標準システムに強制的に合わせることになる。つまり、規模の経済性が損なわれるため運用コスト(対応する職員数)がこれまでより増大する可能性がある。もちろんソフトが標準化されるため法改正などのシステムメンテナンスコストが最小になるというメリットがあるが、新システムへの移行の際には処理の遅延、業務ミスの発生、過重労働などを生じさせないため、事前に業務運用のFit&Gap調査を行い、職員体制が充分であるかを検証することが重要になる。

 今後大規模な制度改革が頻繁に起きることを想定した場合、運用コストがかかってもシステムメンテナンスコストを下げておくことは理にかなっており、システムメンテナンスコストを下げることが自治体標準化の狙いであるなら現状の方向性で間違いない。しかし、トータルコストが最小になることを期待していた場合、運用コストの増加によってトータルコストが最小になるとは限らないことに注意が必要だ。

 政府が目指している「運用経費等の削減」に関する明確な定義は無く、システムメンテナンスコストを指すのか、トータルコストを指すのかは不明である。後者を指すと期待していた場合、運用コストの増大に直面した自治体の現場ではモチベーションを保つことができるだろうか。標準化自体が目的化しないよう、標準化の目的である削減すべき「運用経費等」について、政府と自治体で明確な定義を共有すべきだろう。


[1] 詳細については研究レポートを参照

[2] 人口規模が大きいほど専門的な分業体制が構築しやすくなるため、業務効率が上がる

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